ロックマンXセイヴァーT - 最終章 - 第十三話
第十三話

その時だ・・。
得体の知れない高揚感と、凄まじい力の渦に襲われたのは。
今まで、断片的に思い出し始めていた、自分の過去の記憶が、一瞬にして蘇った。
必死で止めようとしたが、過去の呪縛には敵わなかった。
・・次に意識が覚醒したときには、隣には、アルティメット・アーマーに身を包んだ、
親友の姿があった。
そして、その頭上には、宿敵シグマ。
エックスが気絶している間に、消し去ってしまおうと言うのだ。
汚い野郎だ・・!!
次の瞬間には、ゼロは残りの体力も考えずに、放たれたエネルギー弾と、エックスとの間に立ちふさがっていた。
これでいいんだ・・。
頭の何処かがそう言っていた。
自分の創られた理由を知ってしまった今・・、
親友を助けるためなら、命を捨てても悔いはなかった。
でも・・ゼロは生きていた。
数時間か・・はたまた数日は過ぎたかもしれない暗闇の中で、
一つの光明が見えた。
それが・・彼−Dr.バーンだった。
目が霞み、意識が朦朧とする中で、バーンは自分に向けて手を伸ばした。
そこで・・意識はとぎれた。
意識が戻ると、既に三年の月日が流れていた。
聞いた話では、ユーラシア事件後、『ナイトメア事件』と言う、またしても大規模な事件が起きたという。
だがそれは、大事に至る前に、親友が鎮圧したと聞いて、ゼロは少しだけ笑った。
バーンがハッキングしたベースの資料の中に、見慣れない名前が記されていたのに気がついたのは、
それから二日後の事だった。
その名は『ロックマン・セイヴァー』。
親友と自分のDNAを持って、新たなに誕生した存在だという。
初めは、どんな嫌味な奴かとムカッ腹を立てていたものだ。
しかしそれは、小型のスパイロボを通して映った、楽しそうに笑う、エックスとセイアの姿に掻き消された。
こいつは・・確かにオレ達の弟だ。

「覚悟はいいですね?・・・さっ・・こちらへ。」
不意にかけられた声に、ゼロの意識は現実に引き戻された。
右手で軽く頭を叩き、二、三回振ってから、ゼロは「あぁ」と小さく返事をした。
誘われるがままに、カプセル状のベッドに身を預ける。
それはゼロ専用に用意していたのか、彼の身長にピッタリとはまっていた。
「それで・・目が醒めるのはいつごろになる?」
ゼロの問いかけに、バーンはパソコンのキーボードを操作していた手を止めた。
「はい・・。うまくいけば・・の話ですが、
約100年後の今日・・と言う事になりますね。」
−−信じてる・・待ってるよ・・。
そう言ったセイアの笑顔が、頭にちらついた。
−−すまない・・セイア・・。
100年後に目が醒めたら・・真っ先にお前に会いに行く。
「何か・・心配ごとでも?伝言や宅配物なら・・私が。」
「あっ・・そうだな・・。これを・・オレ達の弟宛に頼む。」
そう言って差し出したのは、ゼット・セイバーの金色の筒だった。
バーンは「承りました」と、丁寧にセイバーを受け取ると、
ゼロの入っていたカプセルを、ゆっくりと閉鎖した。
ガラにも無く緊張する。
きっとあっと言う間だろうな・・。
100年後・・世界はどうなっているだろう・・。
と、少しだけ考えてみて、微笑を浮かべた。
「じゃあ・・頼んだぞ・・。」
「はい・・。それでは・・ゆっくりお休みください・・。」
ゆっくりと、カプセル内に煙が満たされていく。
強烈な眠気。
逆らうことを許さないそれに、ゼロは二秒とかからずに、意識を手放した。