ロックマンゼロ 忘却の悲史 - 第五章
 広大な砂漠に囲まれたその遺跡は、時に忘れられたかのようなものだった。
 かつて、活気にあふれていた住人はすがたを消し、今はひとの影も形もない。
遺跡にある半壊した建物や彫像は、息をとめているようにその場にそびえだっている。
壁はひびわれ、地面には裁くからとばされた砂塵がつもっていた。
 朝や夜でもその光景は変わらず、殺風景な景色だけがひろがっていた。

 だが、今は違った。
今、遺跡は燃えさかる炎につつまれ地獄のような光景をあらわにしていた。
 半壊していた彫像や建物は崩れ、まわりには巨大な火柱がたちのべている。
熱気が辺りをつつみ、遺跡中が業火をうけているようだった。
 ――だがひとつの箇所だけ様子が違っていた。
 遺跡の中央の燃えさかる炎のなかから、突然、淡い青色の光が現れた。
光は炎のなかで形を留め、広がるような光が段々とまるくなる。
 やがて光は消え、あるべき場所にひとつの影をのこした。
 火炎のなかで影はゴソゴソと動き、そして高く跳躍し炎のとどいていないガレキの上へと着地した。
 姿を現した「それ」は、片手で剣を握り、炎をかたどったような鎧を身にまとっていた。
「・・・・・・シエル、反応の行方はどうなった?」
 あの日から数日が経ち、例の反応がふたたび現れることはなかった。
 ゼロたちは任務にあけくれ、結局反応の事はわからずじまいであった。
だが、ある日、それが強力なエネルギーをともなって探知された。
 太陽が沈み夜をむかえた頃、レジスタンスベースから遠く離れた古代の遺跡で確認されたのだ。
ちょうど任務を終えたゼロは急いで転送され、そして今にいたった。

「・・・遺跡の地下を移動しているわ。そこから地下へ通じるところがあるはずなんだけど・・・」
 通信を通してシエルにくぐもった声が聞こえる。
「――分かった。追跡を開始する」
 ゼロはガレキに足をとられないように歩を進めながら、横目で辺りを確かめた。
崩れされたガレキが地面の半分を覆いつくし、遺跡の四分の一は燃えさかる炎に埋め尽くされていた。
周囲は淡い赤に染まり、炎の熱さが身にしみた。
 ふと、ゼロは思った。
 周りには草木や燃焼の原因と思われる燃焼物がないのに炎はこうこうと燃えている。
レジスタンスベースで強力な反応を確認して短時間のあいだ、ここにあった様々な物がガレキと化していた。
 そして一度目の任務で見たあの「穴」からし、あの反応は単なる敵などではないことは確かだった。

 捜索を始めてから数分たったとき、とつぜん、遺跡の奥を進むゼロは視界になにかをとらえた。
遺跡中に広がるある炎の海のむこうになにかの影を見つけたのだ。
「・・・あれは・・・?」
 足を止め、影をうつす炎に気付いたゼロは、それを確認するようにその場にただずんだ。
 暗闇に浮かぶ大きな炎に、四角のうすい影ができている。まるで光の屈折で紙に影ができるように。 狙いをつけると同時にエネルギーを充電し、バスターから強力なエネルギー弾を撃ちだした。
 鈍い爆発音とともに命中した周囲のガレキが粉々にはじけ、炎が風のように吹き飛ぶ。
 ゼロは狙いを定めるバスターショットから顔をそらし、――目先にあるものを確認した。
先程の炎はかき消され、その向こうには地下へのびる細長い四角の通路があった。
 炎が消されたおかげで隠れていた通路があらわになり、入口をおおっていたガレキが吹き飛んだのだ。炎に映った影はこれだった。
 バスターのエネルギー弾は通路のすぐしたの地面に集中していたため、通路に損傷はなかった。
 すばやく地下の入口に近づいたゼロは――途中で足をとめた。
炎に囲まれる通路から二、三メートルのところ、突然凍てつくような冷気が身をつつんだ。
 ゼロは先を見据えた。――紛れもなくあの通路から冷気が吹きだしている。周囲の炎とはまるで場違いだった。
 彼はふたたび足を進め、通路の入口に立った。
 階段式になっている通路の奥は、はてしなくつづく闇のようだった。
闇から見えない姿をあらわすように冷気が吹きつけ、身体中をなでる。

 だがゼロはそれをものともせず、ある考えに没頭していた。
 間違いない――冷気とともに流されてくるこの奇妙な感覚は、あの反応から感じたものと同じだった。
 あの反応はこの奥にいる。 ゼロは通路の闇へ進んでいった。