ロックマンゼロ 忘却の悲史 - 第十二章
「・・・・・・それでも敵は、容赦なく俺を攻撃してきた」
 巨大な管理室のなか、ゼロと向き合っていたバフュラが言った。
「しかし――俺は最後の力を振りしぼって、その窮地を切り抜けた。俺を中心におきた大爆発は、そこの一帯も、跡形もなくふきとばした。しかしだ――俺の体にもその影響は広がってしまい、爆発とともに俺の体は、バラバラになった。あとに残ったのはわずかな電子のカケラ――俺の本体――だけしかなかったのだ」
 バフュラはひそかに一息つくと、
「――そして俺はある目的のために、この世界を漂いはじめた。その目的は、今も続いている」
 ・・・ゼロは、少々あっけに取られていた。
 これほどたやすく、相手が身柄を説明するとは思っても見なかったからだ。
 情報を得るこっちとしては得をするに違いないが――それとも、なにかあるのだろか。
「その目的とやらは、レプリロイドへの復讐を言ってるのか」
 ゼロが言う。
「・・・・・・少なくとも、あと一つある」
 と、バフュラが言う。するとふいに、片手を上げだした。
 ゼロが反射的に銃を構える。

 ――しかし、数秒のあいだ、なにも起こらなかった。水を打つように静寂がながれ、まるで時間が止まったかのようだった。
 ゼロが戦闘にそなえて距離をとろうとした――その時だった。
 突然、ゼロの真後ろから細く光る帯があらわれ、ゼロの肩をかすめながら、バフュラの手の平のもとに伸びていった。
 帯は尾をひきながら、ゆっくりとしたスピードで手のもとで球の形を作っていく。
――そして、さらに目を見張ることとなった。
 それと同じような帯が何本も、室内のところどころから出てきたのだ。何本もの帯はバフュラの手に集まっていき、そして渦巻きながら球の形を作りだす。
 やがて紫の光球は手の平大にまでなると、帯の尾が切れた。
「これが――その『目的』だ」
 突然、バフュラが手にもった光球を、自分の胸に押し当てた。
 そこから紫の閃光が放たれると同時に、手を押し当てた胸から、紫の血管のような筋が体中に広がっていった。
 たちまちそれはバフュラの体を覆い尽くし、白紫の輝きをさえぎった。
 紫色の血管状のものは、そのバフュラの体を純粋な紫の輝きで埋めつくす。
 ――その輝きはまさに、手にのせていた紫の光球と同じものだった。
「・・・・・・まさか」
 ゼロは呟いた。
 ほんの小さな声で呟いたつもりだったのだが、それをバフュラは聞き取り、
「――そうだ。あの球は俺が言っていた、体の一部だ」
 バフュラはまだ胸に押し当てたままの手を見て、そして目だけの顔をゼロに向けた。
「といっても手や足や頭というものじゃないが。――しかし、ここの一帯にはもう目的のものはないようだな」
「一帯だと?」
「そう言ったぞ」

 ゼロはハッとした。
 数日前から発生している、あの謎の出来事・・・・・・。
 任務での、あの暗い森林。そして古ぼけた遺跡。あれは全てこのバフュラが関係していたのだが、その目的はまだ分からなかった。だがしかし、それは今なら考えられる――。
バフュラがさきほどから言っている『目的』。
 それは、森林や遺跡での行為も、一緒のものではないのだろうか。
 そう――自らの体をまとめるため、バフュラは森林や遺跡を回っていたのではないのか?
「――数日前、あの暗い森林地帯にいたとき、あれはお前だったな?」
 あの時、バフュラはゼロの顔を一度みていたはずなので、その話は分かるはずである。
「そうだ」
 バフュラが言う。
「なら、そこでお前は何をしていたんだ?」
 ゼロがそう言うと、バフュラが嫌にニヤつきはじめた。
「一応、察しはいいな。――まとめて言うが、あそこでも古ぼけた遺跡でも、目的は『体を集める』ためのものだった」
「・・・・・・それでだけなのか」
「ああ。同じように数日前、平地にて自分の体のカケラを求めてそこに来たが、すでに妙な軍団らに取られてしまっていたようでな。そこは力づくで奪い去った」
 平地? どこかで訊いたような響きである。
 ――そうだ。平地と言えば、あのネオ・アルカディアの出来事が頭に引っかかっていた!

 だとすれば――あの惨事は、このバフュラが仕掛けたものだったのか?
 ――ゼロはなぜか、不思議に、何かの大きなものに触れたような感覚がした。