ロックマンゼロ 忘却の悲史 - 第十章
 白い「もや」が視界を覆い尽くし、やがて青白い光が目を瞬かせる。
 突然身体がガクンと落ちたと思うと、視界を覆っていた青白い光が下から消えていき、古びた廃施設が目に入る。
――ゼロは、膝をついた体勢から立ち上がった。

「ゼロ、サイバーエルフの反応は別の方角から廃施設に向かっているわ。そこの地点から確認できるかしら?」
 シエルが通信を越して言う。
 白い雲が点々とつづく青い空の下、その廃施設は不気味にそびえだっていた。
箱のような四角い形の廃施設は、全体が鉄の壁に覆われ、ところどころその壁が剥げて錆びついていた。
 そのせいで施設の外見は「白い」イメージではなく、茶色のようなイメージにように見えた。
 あたりには乾いた地面から小さな草が生え、殺風景な景色を広げている。
 ――しかし、身を囲むようなその景色には、あのサイバーエルフの姿は一向に見えない。
「・・・いや、反応は見ない」
 ゼロは、古い廃施設を見た。
 このまま辺りで例の反応が来るのを待ち伏せしていても、仕方がない。
 ならこちらも、あのサイバーエルフがおもむくと思われる場所――目先の廃施設に潜り込めば、あのエルフと出会うかもしれない。
「――シエル。目標の反応の動きはどうだ?」
「そのまま向きを変えずに、施設に接近してるわ」
 すぐにシエルが応答してきた。
やはり、あの廃施設に潜入するのが得策か・・・・・・

「・・・今から反応の目的と思われる、廃施設に潜入する。目的に変化があったら連絡をたのむ」
 ゼロはそう言い、即座に走りだして廃施設に近づいていった。
 廃施設との距離を縮めていき、施設を見上げるほど接近する。
 そしてふたたび辺りを見回すと――目的のものは、すぐに見つかった。
 施設の広い壁の側面にシャッター式の入口扉があった。周りと同じように扉はところどころ錆びている。
すぐさまそこへ駆けつけると、ゼロは目前の扉を目で確かめた。
 最近、誰かが出入りしたあとはないか、真新しいシャッターの錆びの傷を調べる。――だがその扉には何のへんてつもなかった。
 ゼロは更に、手の平を扉にあててみた。
シャッター扉が反応して起動するか、直に試しているのだ。しかし、パキパキと錆が崩れるのような音のほか、なにも起こらない。
「仕方がない・・・」 ゼロはそう呟くと、両腿に備えたゼットセイバーの一つを握った。
 作動できないシャッターは、今でただの邪魔な壁に過ぎない。そのため、自力で扉を強行しなければならないのだ。
 ゼロは錆びた扉をすばやく斬りつけると、扉はいとも簡単に崩れ落ちた。
同時に遠くへつづく暗い通路が姿を現す。
 電気系統がまだ生きているためか、天井の照明灯が薄く光っていた。

 廃施設へ入るまえにサイバーエルフが先に施設に潜入していないか、ゼロはいちど確認することにした。
「シエル、サイバーエルフの反応はどうなった」
 しばし間が空くと、シエルが応答してきた。
「――いま、廃施設に行ったわ。遅い速さで施設をまわってる・・・」
 ゼロはシエルの声を聞きとりながら施設の通路を進みはじめた。
 ――例のサイバーエルフはゼロとの戦闘のあと、この廃施設に行くよう、わざわざ相手から指定してきた。
 ということは、そこになにがあるのかは大体考えられる。
 何らかの事情を話すため、わざわざ場所を変えてこの廃施設にいくようにした。
またはその廃施設にサイバーエルフの手掛かりや、妖精戦争に関係している記録があるため、そこにいくようにする。
 あるいは、またの何か・・・。
 いずれにしてもあのサイバーエルフ――バフュラ――が廃施設にいるか否かで、その結果はだいたい考えられる。
 しかし、どうも、どの結果もあたまにピンと来ない。
 ――ゼロは、あのバフュラがなぜ廃施設へ行くようにしたか、未だ不思議に思っていた。
「二階へつづくフロアに向かってる・・・・・・二階に上がったわ」
 ゼロがさまざまな機械が混んだ室に着いたとき、シエルが応答してきた。
まわりにある機械は当然動いていなく、あたりには寂しげな静寂が流れている。

 この室には天井までとどく大型の機械類が並べられており、やはり照明灯が薄く光っている。
 ゼロがあたりを見回していると、またもシエルが、応答してきた。
「三階へ上がったわ。最上階の四階のフロアにつづく道を行ってるけど・・・・・・ゼロ、反応の追跡をお願いできるかしら」
「・・・ああ、分かった。サイバーエルフの追跡を始める」
 ゼロは室内の四方に設置されている、その中の一つのシャッター扉に駆けていった
 ――外のシャッターよりは錆びてもいなく汚れもなかったが、ここの発電が停止しかけている以上、――天井の照明灯がそうだ――やはりその扉も作動しなかった。
 ゼロはシャッター扉の前で、握っていたゼットセイバーを振りかぶり、扉の表面を斜めに斬りつけ、道を開き進んだ。
 動かない扉を何度かどかしながら施設の奥へ進み、上へつづく階段を見つけた。迷わず、そこを上がっていく。
サイバーエルフは既に最上階の四階にいるので、同じ階段を進んでも出会うことなどなかったが、四階へ着くとジリジリとあのサイバーエルフを警戒しなければならない。
 ――なんの問題もなく最上階に上がる。
 この施設は広い通路から様々な部屋につながっているようで、それらの部屋へ行くために通路は迷路のように曲がりくねっていた。
 なので、ここでもエルフの姿は見えない。
「・・・シエル、サイバーエルフの詳しい居所をつかめるか?」
 ここが最上階なら、もう相手を追い詰めれたも当然である。あとは相手の詳しい居場所をつかむだけだ。
「四階中央にある大型の管理室へ向かって動いてるわ。管理室への入口は一つだけじゃないから・・・・・・そこから管理室へ行けるルートを探してみるわ」
 ――数分後、ゼロはシエルの指示に従い、四階の中央にあるという管理室へ向かった。
 とりわけこの階はシャッター式の扉は少なく、下の階とちがって緩やかに通路を進めれた。

「ゼロ、そのシャッターを越したら、もう管理室だわ。反応はまだそこには着いていないみたいだけど・・・」
 いくらかの通路を曲がり、すでにゼロは管理室のシャッター扉のまえに立っていた。
 ここを切り抜ければ、あのバフュラが向かおうとしている管理室もすぐだ。
 シエルの通信をうけたゼロはバスターショットを構えた。
――バフュラの反応の追跡を始めてから、相手の動きを見てとっていると、やはり明らかに目的をもって動いているようだった。
 あちらはこっちのように、相手の動き感知していただろうか?
 もしそうであれば、歩にちゅうちょが見られたかもしれないが・・・。
・・・そんなことはどうでもいい。とにかく例の反応と出くわせば、あのバフュラについての手掛かりをつかめるかもしれないのだ。
 ゼロは構えたバスターショットの銃口をシャッター扉に向け立てた。ごく至近距離なので威力はあまり発揮されないのだが、この扉が相手であればすぐに壊れるだろう。
 引き金を引き、十数発のエネルギー弾をいっせいに乱射した。
暗闇だった周辺が、雷に打たれたかのように閃光が走り抜ける。
 弾を撃ち終わったころには、シャッター扉のあちこちがへこんで黒コゲになり、シューッと音をたてて煙が舞っていた。
 ゼロは壊れかけたシャッター扉に近づくと、足で思いきりに扉を蹴飛ばし、すばやく管理室に入った。
 ここでも殺風景な光景が広がっており、照明に照らされたモニターや機械が、並んでいる。
広い部屋のなかで視線を動かしていると、ふいにあるところに目が止まった。
 ――室内の奥の、シャッター扉に近い暗がり。その視界の先に映っているのは――あのバフュラが、そこに立っていた。