ロックマンゼロ 忘却の悲史 - 第一章
大きな室内の電灯が、二つの影を映し出している。
影の一方の乱れた息がふっと止み一瞬の沈黙が流れた瞬間、地面に映っている一つの影が倒れた。
太陽の光も届かない地下の建物の中でゼロは右手にゼットセイバーを握っており、蒼色の眼には苦痛の色が見える。
ゼロは砕け散ったパンテオンを見下ろし、視線をずらして室内の奥を見た。
バラバラになったパンテオンの残骸が山のようにつもり、沈黙の中で火花を散らしている。
「…ミッション終了。帰還する」
ゼットセイバーの鋭い刀身を柄に収め、休む間もなく言った。
途端に身の回りが霧のように白くなり、真白の空間へ移った。


昨日、レジスタンスベースに至急の情報が送られて来たのである。
その内容は聞き慣れたものだった。荒廃したビルの地下で密かに労生活していたレプリロイドの一団が、
荒廃ビル近くを偵察していた大量のパンテオンに見つかってしまい、ビルの地下内を逃げ回っている、とだ。
パンテオンは数こそ在るが、迷路のような地下の中で小さな一団を見つけることは難しいだろう。
そして今となっても探し回り続けているのだ。
―惨めな奴らだ
ゼロが心の中で悪態をついた時、シエルが任務について話した。
「ゼロ、今回の任務は時間の問題よ。レプリロイド達はまだ施設内を逃げているらしいの。
パンテオンの大団はビルごとの破壊しようとしているらしいわ。なんとか救い出して…!」
ゼロはシエルの顔を見、素早く返事をした。
「ああ」
それは一言だったが、意味の重さは大きい。下へ向けた顔の先には緑色のパネルがあった。


ゼロがレジスタンスベースに戻り一刻が過ぎた頃、彼は任務の結果を訊いた。
救出されたレプリロイド達は無傷のままで、集落の荒廃ビルの崩壊も心配はないらしい。
事後、レプリロイド達は安全のためレジスタンスへ移された。
そしてレジスタンスベースの存在を知ったレプリロイドの長はこう言い放ったのである。「放浪の身の我々を仲間に
入れてください。我々は感謝を現す物は持っていませんが、役に立つ程の力はあります」
レジスタンスのリーダー、シエルはその願いを受けるかどうか迷った。
いくら善とみなすレプリロイドでも必ずやその本心まで善とは分からないのだ。
相手が「スパイ」という考えだけでも事は危ない。だが、考えた末その願望を聞き入れた。
危険な事に繋がるが行為かもしれないが、今は放浪の彼ら達を迎えるのが先だと、シエルは考えた。


その日、夜があっという間に向かえた。ゼロは休養を取りレジスタンスベースの外で沈黙に浸かっていた。
夜の光を浴びた低い岩に座っている。
「仲間…か」
ゼロはそう呟き、空を見る眼を閉じふたたび沈黙に戻ろうとしたその時、通信からシエルの声が届いた。
「ゼロ、聞こえる?また急の用があるの。来て!」
ゼロはおぼつかない声で言い返した。
「分かった…」
ちょっと一息つこうとな…。そう付け足すつもりだったがやめた。
らしくも無いし、言っても意味が無い。ただ、一息つこうと思ったのは事実。
最近、良からぬ不安が何度も頭を過ぎるのだ。それはいつもの事だろうが、不安が心を包むほどなった事は無い。
彼は顔をしかめて岩から降りた。
―上手く道理は通らないだろう―
ふたたび何かを呟き、ゼロは暗闇へ走って行った。