ロックマンXセイヴァーT - 最終章 - 第十五話
第十五話

『始業前は五分前着席』。
などと言う規則を律義に守る生徒など、今ごろは珍しい。
好き勝手に立ち歩き、先生が来たらすぐに着席する。
そして、必ずと言っていいほど、先生が来たことを報告する係りが、どの学校に行ってもいるのだ。
教師がとう説教しようと、子供達のそんな癖だけは、絶対に直らない強固なものだった。
中等部T−Tの教室の、窓辺の席に、何人かの生徒が固まっていた。
「あれから一ヶ月経つけどさ・・徳川君・・どうしちゃったのかな・・。」
「なぁに・・大丈夫だって・・。あいつならやるさ。」
「案外やられちゃった・・なんて事もあるかもよ?」
冗談半分のチアキ・コンドウの言葉に、フレッドは足元の机を、思いきり蹴飛ばした。
それに驚いたのか、教室中のざわめきが、一瞬にして静まりかえった。
「ふざけんな!!言って良い事と悪いことがあんだろ!!
アイツは帰ってくる!絶対な・・約束・・したんだ・・。」
辛そうな表情で、蹴飛ばした机を立て直すフレッドに、チアキはすまなそうに言った。
「ご・・ごめん・・。俺・・冗談のつもりで・・。」
「もういい・・。」
「大丈夫よ。フレッドの言うとおり、徳川君はきっと帰ってくるって・・。」
二人のやりとりを、頬杖を突いて眺めていたクリスが、二人を励ますように、順々に言う。
「もしかしたら、いきなりいま扉が開いて・・「みんな!ただいま!!」って出てくるかもね・・。」
笑いを含んで、後の扉を指さすと、フレッドとチアキは、馬鹿らしいとばかりに溜め息をついた。
「あ〜・・折角励まして上げたのに・・。そんなんじゃ一生・・・。」

「ガラガラガラ」

「えっ・・?」
三人は思わず振り返った。
続けて、時計を確認する。
8:23。いつも教師が教室に訪れるのは、8:30を回ってからだ。
確か今日は、欠席者はいなかったと思う。
なら・・一体・・誰・・?
「ハァ・・ハァ・・ふぅい〜・・なんとか間に合った・・。」
シルエットが、小さく呟いた。
逆光の為、よく確認できないが、その声や身長から見て、男子生徒である事は間違いない。
他に特徴的な部分と言えば・・・。
見つけた・・。
逆光の少年の頭髪は、黒でも茶でも金でもなく、蒼い色をしていた。
決して染髪では再現出来ないような、海や空のような色。
知っていた。
彼らはこの少年を知っていた。
ピシャリと扉を閉めて、ようやく少年の全貌が明らかになった。
「徳川・・君・・?」
「徳川・・健次郎・・?」
目を見開いたまま、クリスとフレッドが歩み寄ると、少年はこっちを確認したのか、
ピッと指を立てて、笑った。
「久しぶり。クリス・・フレッド・・。・・ってあれ・・?」
何の反応も反さない二人に、少年−セイアは首を傾げた。
「もしかして・・僕のこと忘れちゃった・・?」
人指し指で頬を掻きながら、視線を泳がすと、二人は揃って首を横に振った。
「えっ・・?」
「徳・・・・川・・!!徳川 健次郎!」
「えっ・・えぇ!?」
「徳川君!!」
突然、自分の名前を叫んだ二人に、頭を抱え込まれ、その特徴的な頭髪をかき回された。
わけもわからず、セイアはただ疑問符を浮かべ続けるだけだった。
「この野郎・・!心配してたんたぞ・・!」
「帰ってきたね・・徳川君・・。」
フレッドの手から逃れて、辺りを見回すと、いつの間にかクラスメイト全員が、セイアを囲む形で立っていた。
みんな・・僕を待っていてくれた・・?
「た・・・ただいま・・・・ただいま、みんな!ただいま!!」
「おかえり・・。・・良かった・・。元気そうだな・・。」
そう言ったフレッドに、もう一度頭を抱え込まれた。
・・暖かかった・・。
「良かった・・本当良かった・・徳川・・・いや・・健次郎!」
「ありがとう・・。会いたかった・・みんなに・・会いたかったんだ・・。」
「へへ・・なに泣いてんだよ・・。」
「フレッドこそ・・・。」

やっぱり帰ってきて良かった・・。
やっぱり諦めなくて良かった。
ねえ・・兄さん・・。
聞える?兄さん・・。
僕を迎えてくれる人達が・・こんなにいるんだ・・。
もう・・暫くは・・泣き虫な僕とさよなら出来るかもしれない・・。
ありがとう・・・お兄ちゃん・・。

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